"ドラゴンズ松坂投手"誕生に贈る5つの期待

北辻利寿

2018年1月23日

松坂大輔投手の中日ドラゴンズ入団が決まった。1月23日午後、ナゴヤ球場で行われた入団テストに合格して、即入団が決まった。背番号は「99」と発表された。

 

ソフトバンクホークスを昨シーズン限りで退団した松坂投手については、その獲得にドラゴンズが名乗りを上げてから、ドラゴンズファンの間でも意見が真っ二つに分かれていた。否定的な意見の理由は、37歳という年齢に加えメジャーから日本球界に復帰しての3年間で1ゲームしか登板していないことだろう。ましてや昨シーズンの登板は0である。

去年11月のドラフト会議指名内容からも明らかなように、ドラゴンズが若手への切り替えを進めているチームだからこそ、ファンが疑問符をつけたくなる気持ちも当然であろう。

 

しかし、私は次の5つの理由から、松坂投手のドラゴンズ入団決定に期待したいと思う。

 

第1に、松坂投手が再びマウンドで投げる姿をもう一度見てみたい。

「松坂大輔」というブランドは、アマプロ問わず野球ファンにとってはやはり特別なものであり、パ・リーグそしてメジャーに続き、セ・リーグでは初のマウンドになる。

復活がかなえばその投球を見てみたいし、ドラゴンズファンの立場なら「ナゴヤドームのマウンドに立つ松坂が見たい」となるだろう。

 

第2に、松坂本人の「投げたい」という気持ちを大切にしたい。

甲子園を沸かせたスーパースター、そして日米通算164勝を挙げた投手が、入団テストを受けてまで現役生活にこだわるのである。

完全燃焼していないのなら、その思いを大切にしてあげたい。

3年間まったく戦力にならなかったホークスファンには申し訳ないが、華麗なる復活を目の当たりにしたい。

 

第3に、若返りを進めるドラゴンズのチーム内への効果である。

球団が松坂投手にアプローチを始めたことが表面化する中、多くの選手が松坂投手への"あこがれ"を語っている。

一流選手の言葉そして所作は、何よりの勉強材料になる。まして松坂投手は日本球界だけでなくメジャーでも活躍、さらにそこでの故障や挫折も味わっている。

チームにとっては有形無形の好影響があると思われる。同時に松坂世代のベテラン投手にも大いに刺激になるであろう。ブルペンの活性化は「投手王国」復活をめざすチームにとって何よりのことだ。

 

第4に、ドラゴンズというチームの体質である。

今年で球団創立82周年を迎えた老舗チームであり、その歴史において、これまでも意外な"懐の深さ"を見せてきた。

2002年(平成14年)にはメジャー行きを希望していた大阪近鉄バファローズの大塚晶文投手を受け入れて、翌年オフにポスティングでサンディエゴ・パドレスへ送り出している。

2007年にはオリックスバファローズを自由契約になり行き先のなかった中村紀洋選手を育成選手と入団させ、その後、支配下選手として登録した。中村選手はその年の日本シリーズでMVPを獲得した。

選手ばかりではない。ライバル球団である讀賣ジャイアンツで選手そして監督として活躍した故・水原茂氏を1969年(昭和44年)に監督として受け入れて3年間采配をまかせた。その間に新人として入団してきた故・星野仙一投手や谷沢健一選手らはその5年後に20年ぶりのセ・リーグ優勝の中心選手となった。

また、FA宣言して宿敵ジャイアンツに去って行った落合博満氏を、2003年オフには監督として戻している。ドラゴンズ球団史において翌年からの落合政権8年間は"黄金時代"となった。

数々の歴史が証明するように、名古屋に本拠地を置くこのチームは、球界で独自の光を放ってきた。松坂にもその光が注ぐことになる。

 

第5に、ドラゴンズが"オフの主役"として一躍スポットライトを浴びることになる。

「京田の新人王」「ゲレーロの移籍」この2つ以外に目立った話題の少ないシーズンオフである。5年連続Bクラスと低迷する中、大谷・清宮フィーバーに沸く北海道日本ハムファイターズだけが注目される現状にやきもきしてきたファンも多い。

松坂投手の入団によって、2月からスタートする沖縄キャンプ、オープン戦などシーズン開幕への日々が全国的に大きな注目を集めることになった。

そして、もし松坂投手の復活が実現すれば、公式戦でのナゴヤドーム観客動員への計り知れない効果が期待できる。

今から22年前にオープンしたナゴヤドームはここ2年連続で観客数200万人を割り、昨シーズンは1試合の平均観客数が2万8619人と開場以来、最も少ない数字となった。松坂投手がそのマウンドに立てば、間違いなく観客は増えるはずだ。

 

もちろん、今回の松坂投手獲得はプロ野球の球団として様々な計算もあってのことだろう。しかし、ドラゴンズの森繁和監督が先日テレビのインタビューで語った言葉・・・

「野球に対する姿勢。力が劣っていても向かっていく姿勢が、今のウチ(ドラゴンズ)に必要だ」。その松坂投手へのエールに拍手を贈りたい。

 

個人的な希望を述べる。ご容赦いただきたい。

2018年シーズン、マツダスタジアムでの広島カープとの開幕3連戦の後、ドラゴンズは4月3日にナゴヤドームで本拠地としての開幕を迎える。相手は讀賣ジャイアンツである。その先発マウンドに是非、松坂投手に立ってもらいたい。そして、移籍してきたばかりの四番打者から三振を奪ってほしい。竜飲、いや留飲が下がる名古屋のファンも多いことだろう。

そんな楽しみを抱かせるのが「松坂大輔」という投手である。

 

東西南論説風(27)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

「働き方改革国会」に注目だ!

北辻利寿

2018年1月19日

【CBCテレビ イッポウ金曜論説室】

●安倍晋三首相は、1月4日に三重県伊勢市で行なわれた2018年最初の記者会見で、近づく通常国会について次のように宣言しました。「働き方改革国会です!」。

その第196回通常国会が、1月22日に召集されます。会期は6月20日までの150日間です。

 

●今回の通常国会ではたくさんの法案が審議されます。

去年秋の衆議院解散によって先送りされた法案の中でも、注目されるのは、安倍首相の言葉にもあった「働き方改革法案」です。

ポイントは、これまでいわゆる"青天井"状態で延ばすことができた残業時間に上限の規制を設けること、同一労働で同一賃金を得るルールの導入、そして、高い収入の専門職を労働時間の規制から除外する「脱時間給」制度などが挙げられます。

厚生労働省は、この働き方改革関連法案の施行について2020年をメドとしていますが、野党は残業代との関連で反発する姿勢も見せており、国会での審議の行方に関心が高まります。

 

●もともと通常国会では新年度予算案の審議が重要です。

2018年度の新年度予算案は一般会計が総額97兆7128億円余りと、6年連続で過去最大の更新となりました。社会補償費や防衛費のアップが目立ちますが、アベノミクスも6年目に入る中、国民の実感が伴う景気対策が望まれます。

 

●この他に審議が予定される主な法案では、飲食店での受動喫煙対策を強化する「健康増進法改正案」。

18歳選挙権も定着しつつある中、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法改正案」。この民法改正案には、高齢社会に合わせて相続制度の見直しも盛り込まれます。故人の配偶者が自宅を引き継ぐ権利などで優遇される内容で、こうした相続法制の大幅な見直しは1980年以来、実に38年ぶりです。

 

●この他にも、カジノを含む統合型リゾート実施法案などもが注目されますが、何と言っても、その行方に関心が集まるのは、憲法改正案です。

安倍首相は「働き方改革国会」と宣言した同じ記者会見において、「憲法のあるべき姿を国民に提示した上で、憲法改正に向けた国民の議論を一層深めていく、そんな1年にしたい」と年頭に語っています。通常国会の間に、憲法改正案についても何らかの動きがあるのか、私たちひとりひとりが注視していかなければなりません。

 

●その一方で、対する野党ですが、去年秋の解散総選挙の際に、民進党が分裂しました。立憲民主党、希望の党、そして民進党など、かつてのひとつの党にいた議員たちがどのように共闘を組み、野党として自民党政権と見合っていくのか。

希望の党と民進党の統一会派作りも白紙になるなど、野党共闘の行方は不透明です。

去年、国会では党首討論が行なわれませんでした。野党側の時間が短縮される質問時間の配分問題など、本来国会の場で必要な本格的な論戦が次第に曖昧になってきている現状です。

まさかの衆議院解散総選挙がなければ、来年2019年夏の参議院選挙まで国政選挙がないと見られる中、今後の国会の枠組みをも占う大切な通常国会になります。

イッポウ「金曜論説室」より  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

野球の敬遠革命~田尾は岩鬼は何思う?

北辻利寿

2018年1月16日

画像:足成

中日ドラゴンズで活躍した田尾安志選手を語る時に必ず出てくるのは、1982年(昭和57年)10月18日、近藤貞雄監督の下でセントラルリーグ優勝を決めた横浜スタジアムでのゲームである。

ドラゴンズがマジック1で迎えたこのゲームには、優勝とともに首位打者争いがかかっていた。打率トップは横浜大洋ホエールズの長崎啓二選手(現・慶一)で3割5分1厘、2位は田尾選手で3割5分0厘1毛。その差はわずか9毛差で、田尾が1本ヒットを打てば逆転する僅差だった。
長崎にタイトルを取らせたいホエールズは長崎をスタメンから外してベンチに置き、田尾を毎打席敬遠するという策に出た。田尾は最後のチャンスとなった5打席目、3ボールからの敬遠球を2球続けて空振りする。
打者としての勝負を避けられたことに対する猛烈な抗議であり、その姿にドラゴンズファンはもちろん、多くのプロ野球ファンは声援を送った。そんなシーンももう見られなくなるのか。

敬遠をする場合に申告すればボール4球投げなくてもいいという「申告敬遠」規定が野球ルールに採用された。先日開かれたプロ・アマ合同の日本野球規則委員会で決まったのだが、守備側の監督が審判に対して敬遠の意向を表明すれば、投手は1球も投げないまま打者は「四球」として1塁に出塁できる。


今回のルール変更の理由には、2020年の東京五輪での野球競技復活がある。
全日本野球協会では「日本の国内ルールが、米メジャーリーグや国際大会との食い違いがあってはいけない」と説明した。メジャーリーグではすでに2017年シーズンから、試合時間短縮を目的に「申告敬遠」を採用している。

しかし、いち早く昨シーズンにメジャーリーグにおいて、バッターボックスで実際に"投げない敬遠"を経験したイチロー選手は「ダメ。面白くない。ルールを戻すべき」と語った。
野球選手は試合中のリズムを気にすると言う。守備の間にバッティングの意識を高めると語る選手もいて、そういう選手は指名打者に回ることを嫌がったりもする。試合時間の短縮以上に、ゲームのリズムにどんな影響が出るのだろうか。

野球漫画『ドカベン』でも敬遠四球はドラマを盛り上げる要素として登場している。
主人公・山田太郎捕手に勝るとも劣らない人気キャラクター・岩鬼正美選手は、他の選手が打たない"悪球"を見事に打つ選手で始球式のボールをホームランにしたほどだが、岩鬼が敬遠のボールを打つドラマも新ルールではなくなってしまう。
また山田や岩鬼の所属した明訓高校のエース里中智投手が、迷いながら投げた敬遠のボールを、ライバル横浜学院高校の強打者・土門剛介選手に痛打されるシーンも印象的だが、こうした場面も今は昔か。
敬遠球打ちについては、実際、1990年(平成2年)6月2日の讀賣ジャイアンツ対広島カープ戦では、巨人のクロマティ選手が敬遠のボールを二塁打にしてサヨナラ勝ちしたというドラマもあった。何が起きるかわからない、だから野球は面白いのだが・・・。

きわどいプレイの判定にビデオ映像の検証を求めることができる「リクエスト」。
延長13回から無死1,2塁で試合を開始し決着がつくまで繰り返す「タイブレーク」。
「申告敬遠」と共にいずれも今年からお目見えしていく新ルールである。
どこか"合理的"な印象が否めないが、法律が時代と共に改訂されていくのと同じように、野球ルールにも変化が訪れてもおかしくはない。
ただ、一度決めたルールだから、と頑なに進むのではなく、常に検証を心がけ、場合によっては微修正していくような柔軟性を持って臨んでほしい。野球本来が持つ面白さ、醍醐味、ドラマ性などがルール改正に伴いマイナス面の影響を受けることなく、ますます進化していくように・・・。

5打席連続の敬遠によって首位打者を逃した田尾選手、その打席の印象と記憶は、首位打者を取った選手と同等に強烈であることは歴史が証明してくれている。

【東西南論説風(26)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

新年はニュース続々!でも越年課題も山積

北辻利寿

2018年1月12日

画像:足成

新しい年になって2週間、いつもの年に比べてかなり多くの出来事が起きている。

韓国と北朝鮮の2年ぶりの対話、沖縄での相次ぐ米軍ヘリ不時着、元横綱・日馬富士問題での貴乃花親方の理事解任、カヌー選手による禁止薬物混入、「成人の日」晴れ着業者トラブル、そしてプロ野球で活躍した星野仙一氏の死去・・・。

ニュースは連日にぎわっているのだが、実はこのお正月は越年した課題も沢山ある。

 

海外で気になるは、暮れの12月になって世界を驚かせたアメリカのトランプ政権によるエルサレム首都認定。

国連の場における「首都認定」撤回決議までが年内にあった国際的な大きな動きであったが、今後このトランプ大統領の決断をめぐって、世界に何が起きるのかは想像もつかない。テロの懸念もある。

今から25年前、クリントン米大統領の仲介により、イスラエルのラビン首相とPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長による歴史的な握手、それをイスラエルやパレスチナ自治区の現場で取材した思い出があるが、あの高揚感は何処へ・・・。

中東和平の歩みは決して容易でないことは歴史が語っているが、これまでずっと中東和平の仲介役をしてきたアメリカの方針転換は、ヨーロッパ各国の強い反発の中、世界に亀裂を入れたまま年を越した。

 

北朝鮮をめぐる情勢も、年が明けて南北会談が行なわれたからと言って、核ミサイル開発問題に出口が見えたわけではない。

まもなくお隣の韓国では平昌オリンピック・パラリンピックが開幕、北朝鮮も参加を表明したものの、競技と同様に朝鮮半島には世界中の注目が集まっている。

 

国内では、6年目を迎えた安倍政権の課題。安倍総理は年頭会見で、1月22日に召集される通常国会を「働き方改革国会」と位置づけ関連法案に取り組むことを明らかにした。受動喫煙をめぐる健康増進法改正法案や成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正法案など、去年秋の衆議院解散によって先送りされたテーマが目白押しである。

また継続されている憲法改正論議についても「あるべき姿を年内に提示」と意欲を示した。しかし、去年の流行語に「忖度」という言葉まで送り込んだ、いわゆる「森友・加計問題」は本当にこのままで済んでいくのだろうか。これも越年の課題と言えよう。

対する野党も課題が続く。秋の解散総選挙をきっかけに民進党が分裂したが、立憲民主党、希望の党、そして民進党、この3党の今後の協力態勢もどうなるのか?

これまで「同床異夢」とも見られていたが、今や「異床異夢」の状態である。国会審議が進む中でどう動くのだろうか。

 

去年後半になって続々を発覚したメーカーを中心にした不祥事。日本を代表する大企業で次々に見つかった不正や検査データの改ざんに、日本製ブランドの信頼は大きく揺らいだ。本当にこれで打ち止めなのか。そして新幹線のぞみの台車亀裂とそれを見逃してしまった管理体制のすき間。新幹線の安全神話が揺らいだショックも癒えていない。

 

そして沖縄の基地問題も出口が見えてこない。

12月に入っての米軍ヘリからの窓枠落下事故など火に油をそそぐ事態が次々と起きた上、年が明けてもヘリ不時着などが続いている。そんな中、2月には普天間基地の移転先とされる辺野古、それを抱える名護市の市長選が投票を迎える。

秋にはいよいよ沖縄県知事選も・・・。年を越しても沖縄から目が離せない。

 

スポーツ界では、元横綱・日馬冨士の暴力問題から端を発した相撲協会の内部亀裂。

1月場所は待ったなしでやってくるが、立行司のスキャンダルも発覚。春に向けて理事選もあり貴乃花親方の動向などが引き続き注目されるなど、春に向けて各界の動揺は収まりそうもない。

平昌オリンピック男子フィギュアの羽仁結弦選手の怪我の状態も年越しの心配事である。そして海の向こうのスポーツでは、イチロー選手が今シーズンにプレイするチームが未だに決まっていない。年越しである。

 

除夜の鐘は、古い年を除き去り新年を迎えるものと言う。除夜の鐘の数は108。

107は年内に打ち、残り1つを新年に打つという寺もある。

その数は煩悩の数だと言われるが、実は野球の硬式ボールの縫い目の数も同じ108である。人気漫画『巨人の星』で主人公・星飛雄馬の父・一徹が、除夜の鐘とボールの縫い目の数が一緒だと語る場面がある。この数の一致は偶然だというのが定説であるが、とはいえ数は同じ。

『巨人の星』と同じ、野球を生業(なりわい)とするイチロー選手にも、そして多くの越年の課題にも、早く108個目の鐘が鳴って何かが動くことを願っている。

 

東西南論説風(25)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

 

弔辞~中日ドラゴンズ星野仙一投手へ

北辻利寿

2018年1月 9日

新年最初のコラムで、まさか貴方へのお別れの言葉を述べることになるとは想像もしていませんでした。星野仙一さん。1969年(昭和44年)中日ドラゴンズ入団の時からすっと見守ってきたドラゴンズファンとして、思いを語らせていただきます。

ドラゴンズファンとして星野投手が大好きでした。
エースナンバー背番号「20」を背にマウンドで躍動する姿にいつも興奮しました。
何より讀賣ジャイアンツに強かった。生涯146勝の内、巨人からの35勝は見事です。そして、そのジャイアンツの10連覇を阻止して、ドラゴンズが20年ぶりのセントラルリーグ優勝を決めた瞬間のマウンドには、貴方が仁王立ちしていました。1974年(昭和49年)10月12日のことです。
私にとってこの優勝以上に嬉しい優勝はその後もなく、今後もないと思います。
その前夜の神宮球場、土壇場で同点に追いつき優勝マジックを2としたマウンドにも貴方がいました。鬼気迫る投球に私は翌日の優勝を確信しました。

私が最も好きな貴方のマウンドは、1978年(昭和53年)8月10日ナゴヤ球場。相手はやはり讀賣ジャイアンツでした。
私の日記にはこのゲームのことが詳細に記されています。
4-3の1点差リードで迎えた7回表、無死2、3塁というピンチでリリーフに立った貴方はその回を抑える。
そして1点差のまま迎えた運命の9回表。今度は一死満塁でバッターボックスには四番の王貞治選手。外野フライで同点、ヒットなら逆転という絶体絶命の大ピンチでした。
結果はセカンドゴロでダブルプレイ。高木守道二塁手の軽やかな守備での併殺、そして貴方のガッツポーズ。今でも鮮明に目に焼きついています。

ゲームの後、球審が語った言葉に震えました・・・「星野投手の球そのものに気合いが入り、何とも言い表せない勢いが加わった。最後の一球は真っ直ぐ来たのに、王が打とうとした瞬間になぜか球が不意に小さく変化した」。
当時の王選手が二塁に併殺ゴロを打つことはほとんどありませんでした。
「気合いによって直球が微妙に変化する」・・・まさに"燃える男"星野仙一の渾身の一球でした。
私の日記はこう締めくくられていました「星野はすばらしい男だ。すばらしく燃える男だ。星野と稲尾(和久)コーチの握手の強く長かったこと!この夏もこれで悔いなし!」。

ドラゴンズファンとして星野監督が大好きでした。
最高の戦略家でもあり演出家でもありました。
2年連続三冠王の落合博満選手を1対4の大型トレードで獲得、度肝を抜かれました。
新監督として初めて臨んだドラフト会議で、5球団による抽選に勝ち見事に近藤真一(当時)投手を引き当てたガッツポーズ。貴方はその近藤投手を高卒ルーキーだった夏にジャイアンツ戦に初登板初先発させて、伝説のノーヒットノーランを実現させました。
次のドラフト会議では立浪和義内野手をこれも抽選で勝ち取り、翌年の開幕戦でスタメン起用しました。そしてその年の昭和最後の優勝。
再び監督に復帰した時は、川上憲伸、福留孝介、そして岩瀬仁紀という名選手をドラフト逆指名で続々と獲得し、ドラゴンズを「入団したい球団」としてイメージアップさせると共に、1999年(平成11年)には開幕11連勝という史上タイ記録によって、またもペナントを勝ち取りました。
神宮球場で胴上げがあった9月30日の夜、祝勝会会場のプールに参謀・山田久志コーチと飛び込んでずぶ濡れになった貴方の笑顔、最高でした。

それだけに・・・2001年秋はショックでした。
10月2日ナゴヤドーム最終戦で「私ほどドラゴンズファンに愛された男はいない」とファンに別れを告げた貴方は、その直後に阪神タイガースの監督に就任しました。
ドラゴンズ監督辞任が健康面での理由と言われていただけに、信じられない気持ちでした。ショックでした。
辞任直後のタイガース監督就任については、様々な事情や理由も聞きました。しかし、ドラゴンズファンとして納得しきれませんでした。
これほど愛して好きだった「星野投手」「星野監督」とは訣別するしかないと思いました。
2年後の2003年、縦縞のユニホームを着た貴方の胴上げ。せめて1年だけでも間を空けてくれていたら、せめて行き先がパ・リーグのチームだったら、と口惜しい思いでした。
気持ちの整理をするには長い歳月が必要でした。2013年に東北楽天イーグルスを日本一にして震災の傷癒えぬ被災地を元気づけた姿には心からの敬意を表しました。拍手を贈りました。あの讀賣ジャイアンツを倒しての日本一、貴方にとっても最高の舞台だったことでしょう。それでも・・・。
そんな複雑な揺らぎも今回の訃報に接しすべて忘れます。今はただ「星野投手」「星野監督」が再びドラゴンズファンの元に帰って来てくれた思いです。

星野仙一さん。
貴方が逝った2018年正月、最も似合ったドラゴンズのエースナンバー「20」は誰も背負っていない空き番号です。どうかそのユニホームに身を包んで、ドラゴンズブルーの空に昇って行って下さい。
そして"燃える男"の後継者にふさわしい投手がドラゴンズに現れたと思ったら、背番号「20」を再びナゴヤドームにお返し下さい。
竜の夢をありがとうございました。

【東西南論説風(24)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

【画像】

※足成

日馬富士問題から考える「叱る」の本質

北辻利寿

2017年12月23日

画像:足成

最近一度ならず何度も遭遇している場面がある。

街や地下鉄車内などで、自分の進む前に子供が立ちはだかる。すると横にいる親が子供の手を引き注意する「危ないでしょう」「ケガをするでしょう」。

その度に思う、本来は「お邪魔でしょう」が正解では?

この違いは、主体か客体かと言う立ち位置に関わってくる。

子供を思いやる気持ちは理解できるが、家庭内ならともかく、多くの人が行き交う社会に出れば、やはり周囲への気配りは大切である。客体であるべきだと考える。

当の子供たちは、親からの注意をどのように受け止めているだろうか?

 

元横綱・日馬富士の暴力事件で、日本相撲協会の危機管理委員会がまとめた調査報告書を読み、「叱る」ことのむずかしさを痛感した。

報告書は今回の事件について、時間経過を追いながら、関係者の証言によって明らかになった事実をまとめている。そして、当事者の言い分が違っている部分についてもそのまま両論を記述している。

報告書全体から浮かび上がってくるのは、「叱る」という行為が、それぞれの受け止め方によって、その姿がまったく変わっていることだ。

 

日馬富士が横綱の引退会見で語った「弟弟子が礼儀や礼節がなっていない時、正し、直し、教えてあげるのが先輩の義務」という言葉によって、今回の問題は「日馬富士による貴ノ岩への行き過ぎた指導」と捉えられてきた時期もあった。

しかし、報告書によると、もともとは白鵬が「日頃の言動について説教を始めた」とある。当初それをいさめていたのが日馬富士だったのだが、ある時点で日馬富士が「叱る」側にまわった。ここでも「説教」という言葉が使われている。

同席した関係者が暴行を止めなかったことについても「指導のために行なわれているとの思いがあった」「日馬富士も叱りながら暴行に及んでいた」と書かれている一方で、暴行を受けた側の貴ノ岩が翌日に日馬富士に謝罪をした下りでは「謝罪は本人が納得した上でのものではなかった」と明記されている。

 

「叱る」という言葉の意味をあらためて確認した。

『広辞苑』(岩波書店)によると「(目下の者に対して)声をあらだてて欠点をとがめる/とがめ戒める」とある。

『大辞林』(三省堂)によると「(目下の者に対して)相手のよくない言動をとがめて、強い態度で責める」とある。

その根底には"相手のため""相手に気づかせる"という思いがある。その思いが成就するためには、叱られた側がそれをきちんと受け止めることが必要だ。

調査報告書から浮かび上がるのは、「叱る」行為に対する当事者間の明らかなズレだった。

 

調査報告書で新たに知った事実がある。

被害者である貴ノ岩が、今回の事件の1か月前に同じモンゴル出身の力士を叱っていたことがそもそもの発端だと報告書には書かれている。

9月場所中に東京のカラオケバーで、場所を休場中だったモンゴル出身力士が飲酒している場面に遭遇し「厳しく叱責した」のだ。ここでは貴ノ岩が説教する側であった。

その時の態度や言葉遣いが乱暴だとして、同席した白鵬の友人が貴ノ岩に注意し、さらにそれを白鵬に報告したことから、鳥取での事件につながっていったとされている。

「叱る」行為が幾重にも重なる中に、時を経て「酒」そして「暴力」という許されない要素が加担していった。

 

もうひとつの要素として「怒る」は加わっていなかったのだろうか?

前述の2つの辞書で「怒る」を調べると、「腹を立てる」「気持ちを荒だてて騒ぐ」という意味に続き、いずれにも「叱る」と書かれている。

あくまでも辞書の解釈によるが、それほど2つの行為は紙一重ということなのだろう。

一連の事件において「叱る」だけでなく「怒る」も顔をのぞかせていたことは否定できない。

 

わが身を省みても「叱る」ことは本当にむずかしい。

わが子を、後輩を、そして部下を叱りながら、自分の中に「怒り」が姿を見せた経験は正直ある。そして反対に、叱られながら納得できなかった経験も・・・。

しかし、辞書の中、「怒る」の欄に「叱る」とは書かれていたが、逆に「叱る」の意味の欄に「怒る」という文字は存在していなかった。

 

今回の問題で、横綱審議委員会は、貴ノ岩の親方である貴乃花親方に対しても「言動は非難に値する」と叱り、白鵬についても暴行現場に居合わせたこと以外に相撲の取り口を例に挙げて「自覚をどう促すか」と白鵬本人と相撲協会を叱った。

叱られた側がこれをどう受け止めたのか・・・。それによって、各界を揺るがした今回の暴力事件からの次の歩み方が決まる。

年が明ければすぐに1月場所が待っている。

                               

東西南論説風(23)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

お医者さん飛行士が宇宙へ!

北辻利寿

2017年12月18日

【CBCテレビ イッポウ金曜論説室】

日本人の宇宙飛行士としては12人目になる金井宣茂(かない・のりしげ)さんが、
12月17日にカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から、ロシアの宇宙船ソユーズに搭乗して、宇宙へ向かいました。

金井さんは東京都出身の41歳。2002年3月に防衛医科大学校を卒業後、海上自衛隊で医師として勤務しました。
そして2009年にJAXA(宇宙航空研究開発機構)に入社して、ISS(国際宇宙ステーション)の搭乗宇宙飛行士に選ばれました。
専門は、ダイバーや潜水艦乗組員の体調を管理する「潜水医学」です。

金井さんは日本人としては12人目の宇宙飛行士ですが、これまで宇宙へ行った日本人をふりかえってみましょう。
第1号は、当時TBS(東京放送)社員だった秋山豊寛さんです。1990年にソユーズで宇宙に向かい、宇宙船ミールから地球の映像を生中継するなど「宇宙特派員」として活動しました。
続いて1992年の毛利衛さんは、日本人として初めてNASAのスペースシャトルで宇宙に向かいました。
この他、向井千秋さん、若田光一さんらおなじみの顔ぶれが名前を連ねています。

世界に目を向けましょう。JAXAのまとめによりますと、2017年9月現在で宇宙に行った人は世界で555人。日本人11人はドイツと並んで第3位の高い位置を占めています。
上位の二国はロシア(旧ソ連)とアメリカで、ロシアが123人で第2位、アメリカが340人で第1位と、やはり宇宙開発ではこの二国が文字通り"けた違い"です。

金井さんの仕事場となるISS(International Space Station:国際宇宙ステーション)には世界から15か国が参加、様々な研究に取り組んでいます。
ステーション全体の大きさはサッカー場くらいと巨大で、地球を90分で1周しています。一日あたり16周していることになり、木星並みの二等級ですから、条件が合えば地球からもその姿を見ることができるということです。

金井さんは、ISSの一角にある日本の実験棟「きぼう」に滞在して、船内を移動しながら実験や研究活動を行ないます。テーマは医師らしく「健康長寿のヒントは宇宙にある。」宇宙環境と人体との関係や、宇宙実験を通しての新薬開発などに取り組みます。
ISSに滞在する金井さんたち宇宙飛行士は、余暇には音楽鑑賞やDVDで映画鑑賞を楽しんだり、IP電話で地球にいる家族や友人と会話をしたりするそうです。
またステーション内にある運動器具で毎日トレーニングを行い、健康維持にも努めるそうです。

日本人12人目の宇宙飛行士・金井さんは打ち上げ2日後にはISSに到着予定で、
およそ半年、国際宇宙ステーションに滞在するということです。

【イッポウ「金曜論説室」より  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

ビニール傘を使っていますか?

北辻利寿

2017年12月14日

画像:足成

人気ドラマ『刑事コロンボ』に1972年に制作された「ロンドンの傘」という一篇がある。

イギリスの舞台俳優夫婦が殺人を犯してしまい、ロサンゼルスからロンドンに出張中のコロンボが事件を解決する。

まだドラマを観ていらっしゃらない多くの方に楽しんでいただきたいので内容については触れないが、事件の解決には傘が大きな役割を果たす。

シリーズの中では「二枚のドガの絵」「権力の墓穴」などと並んで大好きな作品だけに、いつかロンドンで傘を買いたいと漠然と思っていた。

 

そんな機会がやって来た。

ロンドンに行った際に、友人から紹介されて1軒の傘屋を訪れた。大英博物館の近くだった。

「自分の背丈に合わせた傘を作ってくれる」と教えられた通り、店では素材を選ぶことから始まった。

メープル(楓)を選択した。店の主人は1本のメープルを私に持たせ、先端を床面に着かせて長さをチェック、切断しながら調整していく。サイズが決まったら次は骨組みだ。

布の柄も自分の好みで選ぶことができ、20分もたたない内に、世界に一つだけの"私の傘"ができ上がった。20年以上前のことだ。

 

ところが・・・せっかく夢がかなったというのに、これは自分の性格によるものなのだが、

何だかもったいなくて使うことができない。

どこかに置き忘れてきたらどうしよう?間違えられて無くなったらどうしよう?などと余計な心配をしてしまう。

ずっと下駄箱の棚に仕舞っていたが、傘は使ってこその傘、と一念発起して使い始めた。しかし、ある日、突然の雨に見舞われてコンビニエンスストアでワンタッチ機能付きのビニール傘を600円で買った。

使い始めたら軽い上に丈夫で、ついつい継続して使ってしまい、ロンドンの傘は、再び傘立てに入れたままになってしまった。

 

かなり長い前説をお許しいただき、これより本題である。

最近ますます、ビニール傘を使う人が増えていることに気がついた。

バス停で見かける年配のサラリーマンの手にも、職場や居酒屋の傘立てにも、ビニール傘が目立つようになった。

周囲に尋ねてみると「気楽に使えるから良い」「店に飲みに行っていても忘れてはいけないという心配が不要」という答が大勢を占めた。

 

ウェザーニューズが2017年5月から6月にかけて実施した「傘調査2017」で興味深い数値を見つけた。

「持っている傘のうち、ビニール傘は何本?」という問いに、1本が26%、2本が20%。やはり持っている。全国の平均はビニール傘1.6本だったが、都道府県別では東京都の1.9本が1位。ウェザーニューズでは「大都市にはコンビニエンスストアなど購入できる場所が多いのでは」と分析している。

また傘全般について「今持っている傘は平均いくら?」という問いには、0~500円が18%、600~1000円が33%。1000円以下で合わせて調査回答者の51%なのだから、値段から察するに、やはりビニール傘の需要が増えていることがうかがえる。

 

同時にビニール傘の機能は格段にアップしている。

もともとは1人用の小さなサイズだけだったと記憶するが、今では、50cm、60cm、63cm、65cm、そして70cmとサイズも増え、それぞれに透明と乳白色の2種類がある。

最近ではワンタッチ機能が付いたものが多い。それでいて値段は安い。手軽に差すことができる。そしてコンビニや薬局などで簡単に買うことができる。

ここまできちんとした傘になってくると、"使い捨て社会"などという言葉は似合わず、ビニール傘も十分に「市民権」を持ってきている。

実際、デザインや形も凝ったビニール傘が増えてきている。

 

傘は魅力ある生活必需品だ。

どこか憂鬱な雨の日の外出、それを少しでも明るく演出するために、お気に入りの傘を持つのはやはり楽しい。

そこに、ビニール傘が決して"臨時の代替品"ではない存在として加わってきた・・・そんな時代なのだろう。

 

ロンドンの傘の代わりに使っていたビニール傘を、通勤途中のバス車内に置き忘れてしまった。

交通局の「忘れ物取扱所」を訪れ、待つこと30分。

「気楽に使えるから良い」のではなかったのか?

「忘れてはいけないという心配が不要」ではなかったのか?

だから「ロンドンの傘」を使わなかったのではなかったのか?

わざわざ時間を割いてこの場に来ている我が身に自問自答していたが、結局ビニール傘は帰ってこなかった・・・。

 

あなたはどんな傘を使っていますか?

 

東西南論説風(22)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

東京五輪マスコットは全国の小学生が投票!

北辻利寿

2017年12月 4日

【CBCテレビ イッポウ金曜論説室】


2020年の東京オリンピック・パラリンピックの大会マスコット、どうやって決まるのかご存知ですか?実は全国の小学生たちの投票によって決まるのです。


大会組織委員会では、2017年8月にマスコットデザインを全国から募集しました。

1998年の長野での冬季大会の時は「スノーレッツ」と名づけられたフクロが大会マスコットでしたが、今から53年前の1964年の東京オリンピックでは大会マスコットという存在がありませんでした。
このため、夏季大会としては日本で初のマスコットになります。
全国から2042件の応募があり、12月7日にこの中から選ばれた3作品が発表されます。そして、この後の最終審査を行なうのが、実は全国の小学生たちなのです。

 


大会マスコットは「選手や訪問客を歓迎し、大会を盛り上げ、その価値を伝え、日本の文化や魅力を紹介する重要な役割」と組織委員会は位置づけていますが、そこでの主役は将来を担う子どもたちだと話しています。

このため、マスコット選考にも、その思いを反映させました。
それが、全国の小学生たちによる最終投票でマスコット決めるという選考スタイルとなりました。
すでに全国2万1000を超える全国の小学校には、組織委員会から投票への参加登録用のはがきが届いています。
投票はクラス単位で行なわれ、組織委員会によりますと、その数は全国で28万クラス、すなわち投票総数は28万票ということになります。


投票には小学校ごとに参加登録が必要です。参加を希望する学校は届いた選考はがきに記載されているIDとパスワードによって、インターネットで登録します。

そして最終候補3件の中から、最も大会マスコットとして相応しい1件をクラスごとに選んで投票します。
投票期間は12月11日(月)から来年2月22日(木)で、登録さえすれば、この間はいつでも投票することができます。

オリンピック・パラリンピックの大会マスコットを小学生の投票で決めるのは"世界初"の試みということです。

大会組織委員会では「マスコットは皆のためのもの。子どもたちの身近な存在として位置づけてほしい」と、投票への積極的な参加を呼びかけています。
最終結果の発表は来年2月28日に決まりました。さて、どんな大会マスコットが子どもたちによって選ばれるのか、楽しみですね。

東京オリンピックは2020年7月24日から8月9日、パラリンピックは8月25日から9月6日の日程でそれぞれ開催されます。

【イッポウ「金曜論説室」より  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

インスタ映え ~新語・流行語&和製英語から見えるニッポン

石塚元章

2017年12月 1日

画像:足成

新語・流行語大賞を選ぶ季節がやってきました。少し前にノミネート30語というのが発表されますが、そのころから「今年はアレでしょ」「最近の流行語の傾向は...」なんていう話題も巷(ちまた)で飛び交うようになってきます。
で、個人的には今年、「インスタ映え」に一票です。

「インスタ映え」。これ、"流行語"であると同時に、まぎれもなく"新語"ですよね。同じノミネートには「忖度(そんたく)」などというのも入っていて、確かにやたらと使われたのですが、どう考えても"新語"ではありません。普通の生活をしてきた日本人はあまり使わなかった...というだけでしょう。

「インスタ映え」のすごいところは、まず「インスタグラム」という写真共有アプリの名前を短縮した上で、「映える」という紛れもない日本語の、しかもなかなかに含蓄のあるワードを合体させているところ。そしてなにより、「写真で撮影したら、さぞかし綺麗だろうな」という一般的な表現・形容の言葉として新たな立ち位置が確立されてきたところでしょう。
実際にインスタグラムで撮影するわけではなくとも、「この景色って、インスタ映えするよね」なんて使ったりしますよね。

実は日本語って、ずっとそうやって集積されてきた言葉です。よく"和製英語"などとも言われますが、それだっていくつかの種類に整理できます。
(1)勝手に縮めた   エアコン、セクハラ、デパート など。
(2)勝手につなげた  アフターサービス、ガードマン、テーブルスピーチ など。
(3)意味が違います  スマート、バイク、ボディチェック など。
(4)英語じゃありませんけど アルバイト、ピンセット、コンビナート など。

これを嘆かわしい...などと思う必要はありません。
日本人はそもそも中国経由で、その後もポルトガルやオランダなどから、さまざまな言葉を手にいれてきました。
とりわけ江戸時代末から明治にかけて、日本では多くの"和製英語"ならぬ"和製漢語"が誕生しました。「え?和製漢語って何」という向きもあるかもしれませんが、たとえば「社会」「個人」「哲学」「理性」「演説」「自由」...まだまだあります。つまり、「海外の文化・情報がどんどん入ってくるようになったけれど、それを表現する適当な日本語がない(汗)」となった時、多くの知識人が、漢文・漢語の素養を生かして、"新語"を次々と生み出してきたのです。西周、福沢諭吉、夏目漱石...。

やがて日本人は、日本語と、和製漢語と、あるいは外国語同士をどんどん"合体"させる力量を発揮し、さらにさらに新たな言葉を生み出していきます。
「えびフライ」「ヘアサロン」「アイドル歌手」「商社マン」「家庭サービス」...。

「インスタ映え」が、ただの流行語ではない...ということがおわかりいただけますか。しかも、「インスタグラム」というアプリがアメリカで開発され、一般に利用できるようになったのは2010年10月のこと。まだ、たった7年しか経っていません。おそるべし、日本人...です。さらに、「インスタ映え」するポイントを探して「写真を撮りに出かける」という新たな文化(?)すら生まれたではありませんか。
良い悪いではなく、文化的・時代的な背景、生活における使用頻度や定着感などをさまざま考慮すると、やっぱり、今年の新語・流行語は、「インスタ映え」しかない...と思うのです。
え?「そういうあなたはインスタグラムやっているのか?」って。いいえ、おじさんはやっていませんが、それが何か?

【ニュースなキーワード インスタ映え】
▼スマートフォンなどで、写真・画像を共有できるサービス「インスタグラム」にふさわしい景色・商品・現象などを形容するワードとして誕生。次第に「写真に撮ると綺麗」を表現する普遍性すら獲得。▼「インスタグラム」そのものは、2010年にアメリカのベンチャー企業が開発しアプリを公開。写真の加工・編集機能も売り。その後、あのFacebookが買収。▼2017年、日本ではインスタグラムで共有するとおしゃれ...を売り物にするビジネスも盛んに。夏には、「泳ぐつもりはないけど、とりあえずプールサイドで写真を撮ってインスタに...」なんていう若い女性を目当てにした「ナイトプール」も流行した。

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